山中玲子助教授
 (文学部非常勤講師)     


 あけすけた話し振りに、経歴から予想していた以上にそれからの会話が楽しみになった。「東京大学助教授」の肩書きを捨てて、現在法政大学野上記念能楽研究所の助教授をつとめる。「ここは世界一の研究所。研究のためには東大の留学生センターにいるより絶対に良い」。 と法政に異動した理由を語ってくれた。
 略歴だけを見ると順風満帆に思える山中助教授だが、文字には表れない苦労が山ほどあったという。東大の大学院を出た後、予備校の人気講師になるものの、当時は今以上に女性の大学就職が難しかった。「女の先生は働かないから」と言われたこともあるという。
 東大留学生センターに就職後も、実際には能楽を教えていないのにもかかわらず、「日本文化=古典芸能」という安易な図式を嫌う人から、「能の研究者がニーズに応えられるのか」という視線を感じたこともあった。現在の職につけたのもただ「ラッキーだったから」と平気な顔で切り捨ててしまう。 彼女の一言一言には後腐れがない。そのさばさばとした口ぶりに加えて、濁りのない言葉。「ここだけの話」を連発し、小気味良いテンポで愚痴や不満も洩らしてくれた。
 ことによると失礼にあたるような未婚の理由の質問についても、 「これだけ好き勝手できるんだったら男と一緒になんて暮らせないよ」 と笑顔で捲くし立てる。しかしその一方で、 「東大留学生センターにブラッドピットなんて目じゃない男の子がたくさんいてさ。しかも頭も良いんだから」 と東大助教授時代の思い出に目を輝かせていたのが印象的だ。専攻である能楽に本格的にのめりこんだのも、「大学生時代に能楽サークルにかっこいい先輩がいたから」だという。 しかし今や能楽研究の世界的な権威である表教授の後任で、二人しかいない能楽研究所の専任助教授。能研究に対する情熱は紛れもない本物だ。
 本年度、著書『能の演出 その形成と変容』(若草書房)で東大より博士(文学)の学位を取得したというミレニアムドクターでもある。数少ない法政の女性教授。やはり気になるフェミニズムについては、 「やっぱり女性は軽んじられるべきじゃなくて、大切にされるべき。きちんと尊重されてほしい」。 持論を淡々と語る姿には、どこか自信が漂う。確固不抜で新進気鋭。一見相反する二つの性質が絶妙のバランスで存在する人はそうはいない。
 法政の型破りな女性教授といえば、田嶋陽子教授を思い浮かべる人も多いかもしれない。しかし個性的で、そして魅力的な人ならばここにも、いる。

【略歴】 一九五七年東京生まれ。一九八〇年、東京大学文学部卒業。一九八六年、東京大学大学院博士過程修了。専門は中世文学。東京大学留学生センター専任講師、同助教授を経て、現在法政大学能楽研究所助教授。文学部非常勤講師。二〇〇〇年東京大学より博士(文学)の学位を取得。
 


   


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