大嶋良明
  (国際文化学部助教授)


 

 なんとも絢爛たる経歴に良い意味で惑わされてはいけない。大嶋助教授は至って謙虚で、自己相対化を怠らない。目を逸らさないで確かめるように言葉を連ねる。 東京大学大学院卒後、IBMに入社。その後、音声認識の先鋭である米国にてECE(電気・計算機工学)の博士号を取得する。 「最初は授業についていくのがやっとだった。解ってきたのは最後のほう」。 と言いながらも、米国の大学院を卒業するには数十倍の選抜に加え、中途「ふるい」の試験をくぐりぬけなければならない。 「大学院の授業は使う単語の範囲が少ないからね。コメディーショーを理解するほうがずっと難しいよ」。

 今や日本一有名な日本語音声認識ソフト、「ViaVoice」も彼の所属していた研究チームによるものだ。製品化がされるかどうか、また日本語連続音声認識が可能かどうかすら解らない中での試行錯誤だった。苦労が無かったわけが無いにもかかわらず、「チームエフォートだよ」と飄々とかわしてしまう。

 ここまでなら普通の「すごい人」。ここからが大嶋助教授の見せ所だ。九二年には米国のインディーズシーンでデビューを飾る。 「ベースを始めたのは中学三年生から。仕事仲間のローカルバンドのベーシストがアルバム制作途中で脱退し、ベースパートの再録音を全曲担当した。音楽に国境はない? うーん、多分、ね」。  その他にも社交ダンスや写真などもこなす。現在のパートナー、つまり奥様と出会ったきっかけも社交ダンスだ。 「バンドやダンスは今でも気分転換の時にやっている。三十代の時には諦めかけたけど、我慢できなくなって、昔のバンド仲間に電話した。今でも音楽合宿とかもやるしね」。 情報系教員と言うと根暗なイメージがあるかもしれないが、そういったものは微塵も感じさせない。彼からは生真面目さとひたむきさが同時に伝わってくる。 「教授と学生とは言え、知らないもの同士。人間味が溢れる材料をばら撒いておけば『僕も人間だぞ』ってことをアピールできる。そういう気遣いがないといったら嘘になる」。

 非常に落ちついてゆっくりと話す物腰は、ことによると隙と勘違いさせてしまいかねない。しかし「国際文化学部に入って良かったですか」、「やりがいはありますか」との問いを、迷わず肯定した時の強い語調が印象的だった。言葉一つ一つにも、自信に裏打ちされた落ち着きがある。 「給料を頂いているのだから、やれる事をやらせてもらう。でも方針なんて大層な事は言えない」。 と教育方針に対する問いにも、やはり至って謙虚ながら確たる信念が伺える。かといっていざベースの話題になると、 「愛器はリッケンバッカー。弾きこんで自分だけの音が出せるからね。フェンダーはフェンダーしか出せない音がするしね」。 やや語気を強めて話をする何とも稀有な、先鋭的な人だ。

 「英語とパソコン」という冷淡な構図ではなく、文化的で人間的な大らかさが身に染みた。「国際文化」をそのまま人間にしたら、彼になる。そんなことすら考えさせられた

 


  

 


 

COPYRIGHT(C)法政大学新聞学会

このホームページにおける全ての掲載記事・写真の著作権は法政大学新聞学会に帰属します。

無断転載・流用は禁止します。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送