去年一年間に人工中絶を行った女性は、三四万人であるというのを何かの雑誌で目にした。比率で見ると、中絶数と出生数に過去三〇年間大きな変化はないようだ。これは、男性主導型の避妊しか存在していないという結果ではないだろうか。つまり、ほとんどの人がコンドームという避妊を行ってきた事になるだろう。  実際コンドームは、日本で8割以上の人が使用しているといわれる最もポピュラーな避妊法ではある。誰でも簡単に薬局やコンビニで入手でき、しかも安いというメリットはあるが、膣内で脱落したり、途中で破れたりと失敗も多い。そして何より男性に主導権があるために避妊を強要できない女性がいるという現状もある。  それに加えて、あるアンケートでパートナーが避妊に非協力的だと答えた女性が、未婚女性で二〇%、既婚女性で一〇%(メディカ出版)という予想以上の高数値の結果が出ている。 この数値から見て、女性自信にも「避妊は相手がしてくれる」という考えがあることが実に良く表れている。  実際に子供を産むのも、自分の今後の事を考えて中絶するのも女性であるのに、これらの状況から見て女性に避妊に対する主体性が欠けていると言えるのではないだろうか。  そこで、確実で女性自ら主体となって行える避妊法の一つの選択肢として、「低用量ピル」を紹介したいと思う。

低用量ピルって何? 

「低用量ピル」の仕組みを説明する前に、小、中学校の保健体育で学んだ「月経」について少し思い出してもらいたい。  女性の体は、排卵の時期になると子宮を柔らかくして卵子を受け入れやすくする「卵胞ホルモン(エストロゲン)」の分泌が高まる。排卵後には受精卵の着手を促す「黄体ホルモン(プロゲステロン)」の分泌も始まる。 卵巣から分泌されるこれら二つのホルモン(女性ホルモン)によって、子宮内膜はさらに厚く柔らかくなる。排卵された卵子が受精しなかった場合、排卵から二週間後に女性ホルモンの分泌が減り、子宮内膜が剥がれ落ちる。これが「月経」といわれるものである。  この仕組みを踏まえて、ピルの仕組みも説明したいと思う。前にも述べたように女性の体は毎月月経がくるようになっている。しかし妊娠してしまうと、女性ホルモンの分泌は続き月経が起こらなくなり、排卵も止まってしまう。この仕組みを利用したのがピルである。ピルには、二つの女性ホルモンが化学的に合成されており、継続的に服用することで、脳が妊娠中と勘違いして排卵が起こらなくなるのだ。またピルによって、卵巣からの女性ホルモンの分泌が抑えられるため、子宮内膜を厚くする作用が弱まり、受精卵も着床しにくくなるという。さらに、子宮口の粘膜も厚くなるため精子の進入も阻害できるのだ。これら三つの避妊作用によって妊娠しにくくなり、ほぼ一〇〇%の避妊効果が見られるというわけだ。

副作用は本当に大丈夫?

 しかし雑誌のアンケートなどでも「ピルには興味はあるが副作用が心配」という答えが多く見られているように、「低用量ピル」について述べる上で、重要なことは副作用についてであろう。「低用量ピル」は、従来のピル(中、高用量ピル)に比べてホルモンの量が必要最小限に抑えられているのが大きな特徴である。そのため、従来のピルより激しい副作用は出ない様だ。といっても全くでないというわけでもなく、飲み始めの数日間は軽い吐き気や頭痛が起こったり、服用中に微量不正出血も見られるが、これらは、慣れてくると自然になくなると言われている。  しかし喫煙者についてはそうはいかない。タバコとピルの相性は良いとはいえず、喫煙者がピルを飲むと循環器官系の病気になるリスクが高まると報告されている。タバコを吸うならピルは飲まない、ピルを飲むなら煙草はやめるべきだと言えるであろう。  そして、「低用量ピル」を飲みやめたあとの妊娠への影響であるが、早ければ飲みやめたあとすぐ、遅くても三〜四ヶ月で通常の月経周期に戻り、妊娠できるようになる。また、ピルによって不妊になったり、その後妊娠した子供に影響が出ることはないとされている。

服用後の妊娠への影響は?

次に入手方法であるが、ピルは医者の処方箋がないと入手できないため、産婦人科で検査を受けて出してもらうか、処方箋を持って薬局で買うことになる。またピルは健康保険がきかないため費用は自己負担となる。費用のほうは病院によっても異なるが、大体定期検査も含めて年間六万円くらいである。

入手方法と費用は?

 最後に、「低用量ピル」の2種類の服用開始方法を紹介しておこうと思う。 一つは、「DAY 1」タイプと言われるものである。ピルの飲み方は、一シート二一錠を毎日のみ続けて七日間休薬するというものである。この「DAY 1」タイプは、月経の初日から飲み始めて、二一日間で一シートを飲みきり、その後、七日間の休薬をして次のシートを飲み始めるというもの。服用開始後すぐに避妊効果が現れるというメリットがあり、月経周期が安定している人には分かり易い方法の様だ。 もう一つは、「サンデーピル」タイプと言われるものである。月経が週末にかからない様に、月経開始後の最初の日曜日から飲み始めるものである。月経が不順で月経開始の初日が分かりにくい人や、スポーツ、レジャーと週末を楽しみたい人には良い方法の様だ。ただし、月経開始日以外に服用を開始すると、服用を開始して最初の七日間は避妊効果が確実でないので、その間はセックスをしないか、他の避妊法を併用する必要がある。

最後に 

こうして「低用量ピル」について詳しく述べてきたが、決してコンドームを全面的に否定したいわけでも、「低用量ピル」:という避妊法を女性に押し付けたいわけでもない。コンドームについては、現時点で性病を防ぐ唯一の手段であるとされているので、たとえピルを服用していてもセックスの時には必ずつけるべきだと思う。 また、セックスが生殖だけを目的とするものではなく、お互いのコミュニケーションや、愛を分かち合うものだとするなら、「望まない妊娠」という結果を避けるための避妊の知識は、男性にとっても女性にとっても必要なものであるし、そういう結果になったときお互いの間で責任の擦り付け合いはあってはならないと思う。 そして特に女性にとって「望まない妊娠」は、体に直接ダメージを受けるだけでなく、精神的にも大きな負担を強いられるのだ。 だからこそ、一つの避妊法として「低用量ピル」について、女性はもちろん男性にも正しい理解を持って欲しいということと同時に、避妊を男性にばかり頼るのではなく、自分で確実に避妊を行い、安心してセックスをするという主体者意識を女性たちに持って欲しいのだ。    (ゆずっこ)

 



 

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