十一月二三日に自主法政祭で、フリーライターの金子達仁氏を招き「サッカーという名の文化を語る」と題して新聞学会主催による講演会が行われた。講演会は、最初に講演が行われ、続いて質疑応答という形式がとられ金子さんの核心に迫った話が展開された。今回は当日に講演が聴けなかった人たちのために講演会の内容を大まかであるが紹介する。 内容は、来年のW杯、Jリーグの現状、中田選手についてなど、サッカーに関して幅広い話となっている

。 ―皆さんの中でスポーツライターなり、物を書くことを志望している人がいるかもしれませんが、忘れてほしくないのは、当たり前のことですけど、メディアが言ってることが本当のことだとは限らないということ。これが今まで数字ではっきり結果の出る野球というスポーツに馴染んだ日本人が、数字では分かりにくいサッカーと付き合っていく上で一番大切な姿勢なのではないかなと思う

  以下、質疑応答を分野別にまとめてみた。

W杯について

来年のW杯は史上初の共催という形で行われますが、これについてどう思いますか

―僕ね、びっくりしました。先日、アイルランド、イランなどに行きましたけど、みんな言うんですよ。「勝って日本へ行こう」って。韓国人聞いたら怒るよね。共催によって日本と韓国の交流が深まるというのは間違いなくプラスな事だと思う。これだけ日本人と韓国人がお互いをいい意味で意識し合った事って今までにあまり無かったでしょう。ただ、日本人はW杯を軽視しているように思う。例えば、W杯の試合が行われる静岡ではW杯を盛り上げようと頑張っているが、隣の愛知はどうか。まず目に飛び込んで来るのは「万博を成功させよう」。ワールドカップのワの字もないんですよ。これではまずいと思う。W杯は、オリンピックのように都市開催ではなく、国開催なんだということを国民はもっと意識すべきだと思う

・W杯について行政の対応をどう思いますか

―フーリガンに対してはナーバスになりすぎだと思う。あと、交通渋滞。FIFAのみなさん、日本の交通渋滞を知らないで開催地を日本に決めたのって感じ。招致委員会の人ってサッカー好きな人少ないんですよ。彼らは何を考えているのか。そつなく終われ。景気回復の一環として考えているにすぎない。前回のフランスW杯では、もちろんスポンサーはついているが、競技場内でフランスのワインやチーズを食べることができた。フランスの食文化というものに触れることができた。前に日本で行われたコンフェデレーション杯、スポンサー以外何もおいていない。もったいないなという気がする。今回のW杯は日本の文化を多くの人に伝えるいいチャンスだと思うんですよ。もしかしたら、日本人にとってはともかく、世界のサッカーファンからすると、2002年W杯は94年のアメリカW杯に続く、史上最悪の大会になってしまう可能性はあると思う

日本代表について

・W杯に向けて日本代表について思うこと

―日本人には戦時に神風特攻隊のような発想を持つ考えを頭に持ってるわけですよ。だから選手達にはそういった死にもの狂いの考えを隠す必要はないし、それを前面に押し出していくべきだと思う。なので、来年のW杯ではどの試合も負けられない、負けたらおしまいだよ、といった切羽詰った雰囲気を国内は作ってほしいと思う

・先日、アレックス選手が日本に帰化しましたが、元外国人選手が日本代表入りすることについてどう思いますか

―僕は全くOKだと思う。今、世界中の代表チームは移民で成り立ってますよ。98年、W杯でフランスが優勝したことで、フランス国内の移民を廃絶しようとする勢力は大打撃を受けた。移民の力でフランスは優勝できましたからね。サッカーというツールが外国人を受け入れていくきっかけになるのであれば、僕は大いに歓迎したいと思う

・トルシエ監督についてどう思いますか

―2,3年で確実に成果は上げてきてると思う。ただ、試合において、リードされた状況で彼はまだ何も見せてないと思う。W杯の組み合わせが決まってからの親善試合でそれを見せてもらいたい

・中田選手の現状をどう見ていますか

―10番の選手では世界で500位くらいの選手。7番の選手では世界で5位には入ると思う。今の彼は10番という重荷に苦しんでる部分があるんじゃないかな。今まで彼は10番をつけたことがないから。ただ、時間が経てば必ず復活すると思う ・カズは復活すると思いますか ―僕はリーグ戦で点を取っていないFWは代表に呼ばれるべきではないと思う。カズが代表入りするには、これから始まる天皇杯、あるいは来年のリーグ戦で爆発するしかない

・これからの日本代表に必要なものとは

―『個』を持つこと。自分が何とかしてやる、といった個を選手全員が持つべき Jリーグについて ・これからのJリーグ発展のために必要なものは何だと思いますか ―発展に関しては、もちろんシステム改善など細かいことは必要だが、基本的に歴史が自然に解決してくれるものだと思っている。現に海外がそうであったように

・Jリーグの現状についてどう思いますか

―チャンピオンシップで勝った、負けたで描かれる明暗の方が、一部残留、降格で描かれる明暗に比べると薄いと思うんですよ。プロ野球の一位と二位の決定的な違いというのをJリーグはまだ描き切れてない。それには前、後期制をやめるしかないと思う。半年で決まったチャンピオン、一年かけてようやくたどり着いたチャンピオン、思いようが違うと思うんですよね。優勝争いをメインにかつ、Jリーグを盛り上げたい、これは最初の十年間はとても重要な事だと思う。でも、もうそろそろいいんじゃないかな。優勝争いが盛り上がれば、降格争いが無いプロ野球に比べ、Jリーグは大きなアドバンテージを得ることができると思う

・これからの若い世代の選手育成についてどう思いますか

―必然的にユース育ちの選手が大半を占めることになってくるでしょう。かといって高校サッカーを否定する必要は全く無いと思う。高校サッカーの場合、忘れちゃいけないのは、Jリーグのユースチームよりたくさんあるわけですよ。例えば、長崎県にはJリーグのチームはないけど、長崎の子にとって国見高校というのは、すごくいい存在なわけですよ。ヨーロッパ型のサッカークラブを作るというのがJリーグの理念の一つではありますが高校サッカーを否定してしまったら日本の持ってるアドバンテージはなくなってしまうと思う。日本の場合、学校に対する愛校心ってみんな強いでしょ。例えば、鹿島対磐田。チームに対する思いはファンは持ってるけど、鹿島市、磐田市が好きな人ってどれ位いるのかな。FCバルセロナが好きなサポーターはみんなバルセロナという街が好きでもあるし、ASローマが好きなサポーターはローマという街が好きでもあるわけですよ。これに近いものが日本で言うと学校だと思うんですよ。だから選手育成に関してはユース育ちが大半になってくるだろうけど、日本サッカーを盛り上げるためには高校サッカーは必要なものだと思う

・中田選手をはじめ、国内の有望選手が海外へ移籍することをどう考えていますか

―一番残念なことは選手を売るチームが海外のビッグクラブに対して卑屈になっていること。売ってやる立場なのにお買い上げ頂いてるみたいな。けど、ある程度時間が経てば日本人の海外移籍には歯止めがかかると思う。確かに、海外のクラブは移籍が盛んになってきてますけど、プレミアリーグに一体何人のアルゼンチン人がいるか、ブラジル人がいるか、ブンデスリーガに一体何人のスペイン人がいるか、アルゼンチン人がいるか。移籍は盛んになってきてますけど、基本的にはよほどのスーパースターでない限り、自分の言語の通じる国にみんな移籍している。やっぱり、ラテン語圏の選手はイングランドに行きにくいし、イングランドの選手はラテン語圏には行きにくい。となると、日本語という独特の言語を話す日本人選手を獲ろうとする動きはある程度のところで歯止めがかかると思う。ただ、2002年のW杯が終わった後、一時的にJリーグが冷え込むことが予想されるので、その時期にJリーグにスター選手がいないのは正直、痛いです

・では、どうすればW杯後のJリーグの一時的な冷え込みを防ぐことができると思いますか

―さっきも言いましたが、まずJリーグのシステム改善だと思う。優勝がもっと特別なものだという雰囲気を作るべきだと思う。Jリーグで得られる喜びの浅さというのが選手を海外にかき立てる一因になっていると思う。あと、海外のスター選手をぜひとも獲ってほしいと思う

金子さんについて

・スポーツライターとして心掛けていることとは

―自分は何を聞きたいのか、自分は何を伝えたいのかをはっきりさせること。若い頃、色んな人にインタビューをしたが、自分の思っていることを全部伝えようとして、結局何も伝わらなかったという経験をたくさんした。僕が今、皆さんに伝えたいことを原稿の上で表すのと、こうやって話して伝えるのではやっぱり違ってくると思う。話すと、そこには僕の表情であったり、しぐさが生まれてくる。そこで今、僕の伝えたいことは何なのかをみんなは分かってくれるだろうし、ただ、それが活字になると伝わらない。そこがライターの難しいところ

・ベストセラー作家になれた要因は何だと思いますか

―運だね。運の一言 ・今の自分の現状に満足されていますか ―僕は物書きが自分の天職だとは思っていない。だから満足はしていない

・サッカーのどこに一番魅力を感じますか

―感情をむき出しにしているとこかな。あと、僕が若い頃、日本ではサッカーはマイナースポーツだったからというのもある。僕はメジャー志向の人間じゃないから

お会いして

 あっという間に過ぎ去った百二十分。独特の口振りで聴衆全員を引き込むその迫力。金子さん自身、超多忙なスケジュールの中で行われた講演会だったが、疲れの表情一つ見せずに聴衆を十分に満足させてくれた。帰り際、「これからも頑張ってください」と言ったところ「ん、まあ、あんまり頑張りたくないんだけどね」と笑顔で返してくれた金子さん。その笑顔の裏にはこれからの大ブレイクの予感を物語っているようだった。

 



 

COPYRIGHT(C)法政大学新聞学会

このホームページにおける全ての掲載記事・写真の著作権は法政大学新聞学会に帰属します。

無断転載・流用は禁止します。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送