大学院への進学率が年々増えている。文部科学省の学校基本調査によれば、昨年の修士課程、博士前期課程及び一貫制博士課程への入学者は七万人を超え過去最高の入学者数になった。「研究がしたい」というよりも、「専門的な技術を身に付けていいところに就職したい」という学生や「キャリアアップを目指す」社会人がふえているのも院進学率の増加につながっている。院側でも様々な高度専門職業人養成コースが始まっており、法政大学大学院では昨年からITプロフェッショナルコースを開設。一年制なのは、主に社会人向けであるためである。企業からの派遣者もいる。 大学院の従来の「研究者育成」という立場は、これからどうなっていくのか。院の在り方が問われている。

●将来を見据えて

 「院の研究は学部生の時から、興味があった」と語るのは法政大学経済学部卒業後、一橋大学大学院へ進学した真下明剛さん。真下さんは現在計量経済学・時系列分析を専攻している修士課程一年目である。 「大学を出てすぐには就職したくなかったけれど、将来は絶対専門職につきたかった。そのためには一橋に入ったほうが有利だと思った。しかしインターンシップを経験してみて、専門性を高めるばかりではなく信用される人間関係を作る方が大事だと思うようになった」 真下さんは修士課程修了後、博士課程には進まず、就職活動をすることに決めている。  野口大輔さんは法政大学大学院人文科学研究科日本文学専攻で言語学を研究している。修士課程一年目である。 「人文の研究は確かに趣味のようなものだけれど、社会にどう還元するか考えたら、知識を人に広められる教員がいいんじゃないかと思う。就職のことはあまり考えて入ったわけではなく、研究をしたくて入ったところが大きい。だから出来れば博士に進みたいとは思う。確かに文系は就職が難しいがあまり将来に不安はない。今、研究をしていることが楽しい」

●院の生き残り策

  大学院進学率が増えているからといって、院がこの先生き残るためには、様々な対策が必要になる。八八年に出された大学審議会の答申では高度専門職業人の養成機能、社会人の再学習機能の強化といった、「社会との提携」を意識した項目も取り入れられている。これにより、社会人入試、昼夜開講、通信制など「開かれた大学院」、「世代を超えた大学院」などの新しい型の大学院が増えてきている。 しかし従来の研究の高度化、研究者育成に加え、これらの項目をクリアするためには、特に国の支援が少ない私立大学は専任教員、専用施設の不足、など財政面で厳しい。そのため研究者の育成か専門性の養成のどちらかに重点を絞る院も出て来る。

●法政大学大学院の場合

  法政大学大学院では、ITプロフェッショナルコースの他に法曹界への進出も考えており、二〇〇四年にロースクールの開校を目指している。八割を司法試験に合格させることを目標としている。 「社会に優秀な人材を輩出し、名前が通る院にしなくては生きてはいけない。だからといって研究者の育成をやめるわけではない。文部科学省の出した『遠山プラン』では、分野ごとに優秀な研究を行っているトップ30の大学を選び国の支援を絞ることにしている。しかしその先の就職となると、日本はまだ研究者に対し企業の認識が低いのが現状」と法政大学学務部次長(大学院)の上遠野さんは語る。

●企業

 理系と文系では、院進学者の数も違えば、就職率も格段に違う。就職活動において、特に修士課程の場合、理系は院進学者の方が、学部卒よりも有利になるが、文系は院進学者の方が、学部卒よりも圧倒的に不利。文系は博物館学芸員や教員になるしかなく、その数も限られている。企業は文系を採るとなると、会社の中堅位置に据えるための「再教育」を行うため扱いにくい人間は出来るだけ採りたくないと考える。そして、研究をして知識を蓄えてきた人間より、学部卒生の方を採るようになる。理系にしても研究が即企業に認められることは日本では少ない。

●これからの大学院

 大学院は今までの「大学のステータス」という立場から、一つの独立した形を取り、いわゆる専門学校のような機関になる可能性がある。 「今、大学院の形がかわってきている。国はグローバル化に対応する人材の輩出を大学院に求め、さらに重点化を図る為に院の変容を進めている。しかし専門性の養成にあたっても人間性の形成を忘れてはいけない。そうなると基礎的な人文・社会科学の研究を切り捨てるべきではない」と吉田法政大学大学院議長は語る。 院はこれから自力で生き残り競争に勝っていかなくてはいけない。そのために社会の求めるニーズに応えていこうとはするが、それだけでは先が詰まることを知っている。そこにあるジレンマを解消するためには実利を追うだけでなく、人間性の育成も視野に入れた『大学院』を考えていくべきではないか。

 



 

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