早期化・長期化する

就職活動の現状


 以下の表はある損害保険会社の採用スケジュールである。

 三年次の十二月に催される学生を対象としたキャリアアドバイス。そこから業界セミナー、OB訪問、エントリーシートの提出、面接と流れ、三月末には内定が出始める。就職活動は年々早まりつつある。実質的なエントリー開始は年明けであるものの、企業研究など就労意識をもち始める期間を含めれば、今すでに就職活動は始まっている。

 もともと、採用時期の早期化傾向というものは、一九五二年の就職協定制定後にも存在していたが、一九九七年の協定廃止をきっかけに、企業の青田買い合戦に拍車がかかり、ますます早まりながら今日に至っている。企業が採用時期を早めることで、有望な社員を他よりも早く獲得したいという考えは、現代の競争社会では当たり前のことのようにも思える。

 採用時期の早期化は、現在一般化してきているが、これには問題点が存在する。一般企業を志望していたMさんはこう話す。

 「勉学に限らず、サークルやアルバイトなど、学生本来の生活に精を出す人は、採用時期が訪れるまでに十分な準備ができないというのが本音です。また、就活を頑張ろうとすると、逆にゼミや授業に力を入れることができない。学生生活を取るか、就職を取るか二つに一つといった感じですね」

 採用時期が早まることにより、より早い時期に企業研究などに時間を費やさなければならない。結果として、学生本来の生活がないがしろになってしまうのだ。

 就職に対する明確なビジョンがない人もこの早期化というものに苦しむことになる。就職についてはちゃんと考えていても、自分が将来何になるのかがわからず、自己分析ができないうちに、採用時期が始まってしまう。採用の早期化が学生側に考慮の余地を与えない状況を作ってしまっているのである。

 これは結果的に、早期化を仕掛けた企業側にも影響を与える。企業側が早期化を進めることで、企業研究を完璧にし得なかった情報不足の学生を少なからず採用することになる。入社後、自分の抱いていた会社のイメージとは違うことに気付いた学生は会社を辞めていってしまう。大卒者の約三割が、入社後に企業へのイメージとの相違で辞めていくという。有望な人材をいち早く確保しようと早期化を進めたことが、結果的に人材の放出という形で、企業側のデメリットにもなるのである。

 採用時期の早期化の背景にはさらに、就職活動が長期化するという問題をはらんでいる。企業が採用の早期化を進めるということは、つまり、厳選採用を行うということであり、採用に漏れていく学生はそれだけ内定がもらえる時期がより延びるといった、連鎖的なものとなる。

 本学社会学部で労働・雇用関係を教えている諏訪康雄教授は、現在の採用時期の早期化と就職活動の長期化についてこう話す。

  「採用の早期化よりも長期化が問題。厳選採用により、なかなか内定をもらえず、だらだらと就職活動が続く就職活動の長期化のほうが困ったことなのです」

 就職活動の長期化は、大学の授業の進行具合に大きく影響してくるという。ある学生は、「就職活動が長引くことで、実際、ゼミや授業へ出席できないことが多くなった」と話す。

 内定を早く得れば、その後の授業進行に問題はないわけだが、就職活動が長引くだけそれだけ授業のつぶれる回数が増えるというプロセスだ。

  「就職活動の長期化に伴うゼミや授業の妨げは、大学のカリキュラム体系をずたずたにする。強いては、四年制大学の事実上の短大化にもつながる」と、諏訪教授は話す。

 以上のように、学生や教授の視点から見ても、採用時期の早期化や、就職活動の長期化にはさまざまな問題点が存在することがわかった。今後もこの問題は顕在化していくと考えられる中、今一度、採用時期について検討し直す必要があるのではないだろうか。

※就職協定とは 就職・採用活動が学業を妨げないようにとの配慮から、大学と企業の間によって結ばれた協定。就職・採用活動の時期などが制限されていた。しかし実際には協定が尊守されておらず、一九九七年廃止された。

 



 

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