最近の不況の影響で、就職氷河期がまだ続いている。しかし、就職したにもかかわらず、三年未満で退職してしまう早期離職者が近年増加し、問題になっている。昨年、厚生労働省がまとめた雇用保険台帳によると、一昨年の大卒一年目の離職率が、平成五年度の九・四%に対し約六%も増え、十五・七%にもなった。彼らはなぜ離職という道を選ぶのか、その背景はどこにあるのかを分析する。

 東京・六本木にある学生職業総合支援センター。ここは、大学・短大・高専・専修学校等の学生及び二十歳代の既卒者の就職を支援する、厚生労働省の機関である。未就職者を含め毎日約二五〇名ほどが施設を利用するが、そのうち一割程度の人が早期離職後の再就職先を求めてくる。「中には自分の希望の部署に配属されなかったからといって、就職して一週間以内に辞めてしまう人もいます。もったいないですね」と当センター室長の大澤茂さんは話す。企業、特に大企業には、配転・出向がつきものであるのだが、それを知らないがために希望を失い、離職という結果につながってしまうのだ。しかし、こういったケースはほんの一部にすぎない。早期離職者の離職理由は仲間との関係がうまくいかなかったというものや、現実とのギャップを感じたというものなど本当に様々である。

 なぜこのように早期離職者が増えてしまったのか。日本労働研究機構・主任研究員の小杉礼子さんは離職の原因について「企業側と個人双方の変化」を指摘する。まず、企業側の変化だが、企業規模ごとの離職率を見ると、大企業よりは小規模の企業の方が高い。大企業が厳選採用を続けている為、就職先は中小企業にシフトし、必然的に離職率も上がるのである。個人側の変化としては、「豊かさによる個人の仕事に対する価値観の変化」であると小杉さんは話す。世の中が豊かになり、仕事の中に自己実現を見出し、自分の為に辞めるという傾向が強くなってきたのだ。

 さらに前述の大澤さんは、「現実を知らないで就職する人が多いのではないか」と指摘する。昨今は情報技術が発達し、家にいながらにして、膨大な情報を入手することができるが、「これだけでは本当の就職活動とは言えません」と大澤さん。やはり、実際に企業を訪問したりする熱意を持っている人とそうでない人は、面接の際に差が出るばかりか、この情報不足が結果的に、現実とのギャップを生み、早期離職につながっているというのだ。

 では、早期離職は何が問題なのか。確かに本当にやりたいことがあり、目的意識をしっかり持って辞めるのなら悪いことではない。しかし、「仕事の面白さはすぐにわかるものではないので、長くいて初めて吸収することもあります」と小杉さん。大澤さんも、「ある程度の我慢は必要」としており、就職して初めてぶつかる壁に負けない強さを、学生時代のうちに培うことを勧める。さらに小杉さんは、「あまりに早く離職すると、転職する際に企業側に飽きっぽいとかいい加減などといったマイナスイメージを与えてしまう危険性があります」と話し、よほどの覚悟が無い限りは自分のためにならないことを示唆する。そればかりか、労働者の早期離職で、社員の採用計画などが崩れる企業にとってもマイナスだ。

 目的もない早期離職を防ぐためには、大澤さんも小杉さんも「相手を良く知ること、現実を見ることが大事だ」と話す。最近では、時期が来たから就職活動をする学生が意外に多いという。しかし、このような意識の低い状態で厳しい社会に出ると、潰されてしまう可能性もある。学年・時期を問わず、自分は何をやりたいか、どんな仕事に就きたいかを自分自身で考え始め、そのためには何をしたら良いのかを整理していく事が最も重要であろう。

 



 

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