現在、わが国において終身雇用の意識が崩れてきて久しい。そんな中、一つの企業にこだわらず、「自分らしく」働くためや、より良い待遇を求めて「転職」という選択肢を選ぶ人が増えてきている。確かに魅力的な選択肢の一つである転職だが、良いことずくめとは言えない厳しい現実も存在する。今回はキャリアアップのための同業種の転職ではなく、失業者を含む異業種への転職に絞って検証していきたい。

マーケットの現状

  現在転職市場は不景気による再就職を求める人々と、自分らしく仕事をするために転職したい人々が共に増加していることを受けて、年々巨大化してきている。しかし、ここ数年は求人数と求職数の差が埋まらないのが現状だ。総務省統計局の調べによると、平成十三年年度の有効求職者数は約二十三万人なのに対し、有効求人数は約十七万人と大幅に下回っている。また産業別に見ても東京労働局などの調べによると、今まで比較的好調だった電気機械製造業だがそれを支えてきたITブームは終焉しつつある。これを受けてこの分野での求人は前年度比でマイナス三十五・六パーセントとなったのを始め、ほとんどの分野で前年度割れを起こしている。これから先もしばらくは好転する要素が見当たらず、データ的に見ると厳しい状態が続くと予想される。

成功の秘訣

 そのような状況でも自分の希望通りの転職を成功させる人はいる。「とらばーゆ」の編集長である河野純子さんは、「自分の好きなことを見つけそれに向けて努力し続けられる人は高い確率で転職を成功させることが出来ます」と語る。自分の中で譲れぬものを諦めないことが成功の条件の一つだ。 一方、ハローワーク飯田橋の庶務課の片山英実さんは、「特に若い人に多いのですが、自分の今の能力を大幅に越える雇用先や、全く未経験の職を憧れだけで希望される方もいらっしゃいます」と語る。企業が即戦力を求める傾向が強まるなか、そういった人たちの転職は難しいのが現状だ。やりたい事と現実の間である程度の妥協はやむをえない。

実際の具体例

 では実際はどのような転職者が存在するのだろうか。河野さんは例としてある三十代の男性の例をあげた。某大企業に勤めていた彼だが、残業などで毎日帰りが遅く息子と会話する機会もほとんどなかった。ある日、これではいけないと思い立ち天然酵母の豆腐屋を始める。これなら息子に自分の働いてる姿を見せることができる。「もちろん給料などは大幅に下がりましたが、本人は非常に満足しているようです。」 しかしその一方、不本意な転職を行ってしまった人もいる。片山さんは「あまりにも自分のやりたい事を追求したり好条件を希望しすぎるために失敗し続け結局、働く事そのものに対し、やる気をなくして三十代になっても定職に就いてない方も少なからずいらっしゃいます。」と残念そうに語る。転職はその時の努力や考えによって、その後の人生の明暗を分ける分岐点となりうる可能性を秘めている。

企業サイドの考え

  実際に雇う側の企業はどのような意図や基準で転職者を受け入れているのだろうか。ある企業の人事担当者は、「わが社でも転職者を積極的に受け入れていますが、一番のポイントは自分がこの仕事をしたいためにどのような努力をしてきたかです。」と語る。また現在の資格至上主義的な風潮に対して、「自分のやりたい仕事に必要な資格を頑張ってとることはすばらしいことですが、どの職にも通じる普遍的に有利な資格などといったものはありません」と断言する。ただなんとなく役に立ちそうだから、という理由では意味はあまりないといっていい。社会人が会社帰りなどに資格取得のため専門学校等に通うことも珍しくないが、ここに雇う側と雇われる側の意識のギャップがあるといえる。

 これまで見てきたように、転職は自分の夢や理想を追求できる有効な手段である一方、必ずしも自分の思い通りに仕事が出来る夢物語ではない。しかし、自己能力の見極めと粘り強い努力ができるならば転職は「自分らしく」働くための選択肢の一つとして有効なものとなるはずだ。

 



 

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