著作権というものがどういうものか、どのような問題となっているか少しは理解していただけただろうか。ここでデジタル時代が引き起こす著作権侵害行為とはいったい何なのか、また、それによってどのような被害を受けているのか、実際に音楽を提供するレコード会社であるソニー・ミュージックエンタテインメントの広報室課長、井出靖さんにお話を伺った。

―巷にはレンタル店があふれているが、借りたCDなどをコピーするのは違法なのでしょうか。
 その前提として、私的録音の範囲であるのかがあげられます。私的録音というのは、要するにユーザの人たちが個人で楽しむ範囲で録音されているのかということで、主に家庭内で使用するならば著作権法違反にはあたりません。ただ、それによってお金を取ろうとしたり、大量にコピーして頒布しようとしたりするのは違法になります。厳密に言えば友人などにコピーして渡すという行為も違法にあたります。ただ、これはもう本当に世間で当然のごとく行われている行為なので、結果的には楽曲を広めてもらう一種の形態と考えています。もちろん最終的にはお金を出して買ってもらいたいですね。

―デジタル化によってどのような被害が出ているのでしょうか。
 技術の進歩によって海賊盤というものが本当に精巧に作られるようになりました。海賊盤とは、主に東南アジアのほうで作られていて、こちらから輸出したCDを元に、音楽データや、ジャケット、盤の印刷すべてを本物同様に模倣し大量に生産して安く売っているわけですが、それがまた、日本に入ってきているわけです。  これはもう一般のユーザには殆ど見分けのつかないくらい精巧に作られていて、例えばCDの中心部分に製造番号などを入れているのですが、それまでも真似していて、そこを顕微鏡などで拡大して、ちょっとした文字のつくりの違いでやっと海賊盤だと分かるようなレベルなので個々に摘発していくしかないですね。実際に摘発件例もありまして、これはユーザーからのクレームをもとに経路をたどっていったわけですが、これは完全に著作権法違反にあたり刑法が適用されますので、警察のほうに発見次第報告しています。

―インターネットの普及によって何か問題がありますか。
 日本では今のところあまり問題にはなってはいませんが、アメリカではMP3の違法なサイトが出てきていろいろと問題になっています。有名なのはナップスターやグヌーテラーというサイト。ナップスターというのは、サーバーを通してAとBが音楽データをやり取りするところで、ここに行けば大半の楽曲がそろっている。問題なのは、著作権によって守られている楽曲も正式な手順を踏まずにそこにあって、日々ダウンロードされているということです。ただ、このサイトも全米に六千万人以上の会員がいて、それを個々に摘発するのは難しい。  過去、メタリカというアーティストたちが、誰が何をいくつ落としたのかというデータを取ろうという試みをして、実際にデータは取れたのですが、あまりにも膨大な人数のため全てを摘発していくの断念したようです。
 現在ナップスター自体は、各レコード会社に訴えられてカリフォルニアの裁判所で仮処分が決定して、このような違法な形態を運営し続けるのは無理になりました。またこのようなサイトは、大きくなれば目立ちますから見つけるたびに警告を出してはいますが、小さいところはなかなか見つけ難くて、それならば、レコード会社もよりエンターテイメント性の高いサイトでそれに対抗しようとしています。例えば、そのサイトに行けば常に音楽が流れていて、気に入ればすぐ購入できるような、また、アーティストのプロフィールや、ジャケットを公開するとか、特典をつけるなどをしています。なにより個人でそれをやれば目立ちますから訴えればいいわけで、そういう方法で対抗していくつもりです。

―コピー技術の進歩によって私的録音が日々日常的に行われていますがそれに対する、例えばコピーできなくするといった技術的なものは考えていますか。
 コピーできなくするようにするのが一番いいのだけれども、それだと、CDを買ってMDに落として外で聞いたり、また家庭内で聞くこともできなくなりますし、また、僕らは音楽を文化として広めるという役割もありますから、非常に難しい問題ですね。
 ただ、それでは何も解決に向かわないので、例えばMDのように二世代目のコピーができないようにするということも考えています。けれど、そういうデータを入れることによって音質に何らかの不具合が生じるのではないかという恐れもあり、音質自体もまだ研究中なので、音楽を作る立場としてはそれは難しい。将来的には実現するかもしれませんが、今のところは研究中ですね。
 しかし、それが実現するまで、レコード会社などは損をしなくてはならないので、それに代わって、コピーしてもいいから、それによって本当は購買されたのではないかという部分を保証してもらうという制度、私的録音保証制度(SARAH)というのがあります。SARAHとは、録音機械の製造元やメディアのメーカーがレコード協会や演奏者に対して、その代金の数パーセントを保証金として支払っている制度です。つまり最終的にはユーザーが負担しているわけです。MDや、DATなどのデジタル録音機械にはそれによって一定の保証金が上乗せされて販売されています。
 ただ、パソコン用のCD―Rは今のところそれには入ってはいませんが、レコード協会などは、それもその対象にすべきだと保証協会に働きかけています。
 これはあくまで私的録音の範囲で録音されたものに対する保証ですから、海賊盤などに対してはまったく有効ではないですが。
 レンタル屋などは、一枚買うごとに一定の料金をレコード協会や芸団連に支払っています。しかしそれはレンタルされるごとではないので、レコード会社は最終的には幾分かは損をしているといえます。そのような理由でまだまだSARAHは完成されたものとはいえないので制度の確立がこれからの目標になります。

―欧米などでは殆どないレンタル店が日本ではここまで増えてしまったことに対してどう考えますか。
 ここまでレンタルが増えてしまったのにはレコード会社の責任もあるでしょう。CDの価格というのは決まっていて、なかなか安くならない。本当は発売から六ヶ月過ぎたある種類のレコードは、レコード店が独自に価格を定めていいということになっているんですが、なかなかそういう風潮にならない。本来ならば、新譜と旧譜などで一定の違いが生まれるような適正価格で販売すべきで、レコード会社こそ主導でそういう方向に導いていかなくてはならないのでしょうが、そういう努力を怠ってき、その結果流通の構造についていけなかったというのはありますね。  レンタルが始まったときも、ビジネス的に成功するとは考えなかった。ただし主導するために、過去レコード会社数社の共同出資でレンタル会社を設立したこともあります。
 そういう中で、やはり最終的にはいい楽曲を作ってこなかったというのが一番の理由だと思います。楽曲にもいろいろと段階があって、ラジオで聞ければいいや、これは借りてMDとして持っておこう、これはMyCDとしてもっておきたいと、その最終段階の楽曲をいかに作るか。借りて返してしまうのではなくて、いつまでも手元に置いておきたい、ゆくゆくは自分の子供にも聞かせてあげたいという曲をいかに作り出すか。クラシックなどはまさにそうでしょう。
 分かり易いところで、レンタルがここまで普及しているのに、例えば宇多田ヒカル等は、八百万枚もセールスをあげています。楽曲さえよければ買ってくれるということの証明だと思います。 ―デジタル機器の普及によって売上は落ちたのでしょうか。
 デジタル機器というよりも、レンタルの普及でしょう。録音をする人はレンタルをしますから。  やはり、全体的には落ちていますね、でもそれはエンターテイメントの多様化によるもので、その中の一部にレンタルという要素も入っているでしょうが。昔はカラオケもその要素でした。カラオケする人は買うよりもレンタルして歌詞などを覚えてカラオケ屋にいこうとしますから。

―ありがとうございました。このように、デジタル機器の発達や、それに付随するレンタル店の増加により、本来ならばアーティストなどの著作者に還元される部分が、不当に侵害されているということが見えてきたのではないでしょうか。これから、レンタルするときやコピーするとき、著作権というものがあるんだということを心の片隅に入れておいてはいかがでしょう。 取材・文 木琴

 



 

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