感動の映画だ。それは間違いない、ラスト近くでは必ずといっていいほどあなたは涙を流すであろう。たとえそれが悲しみの涙であろうとも。

 この映画では常に黒いもやのような感じが付きまとっている。画質のせいかもしれないけれど、まず第一にはビョークを主演に持ってきたことだろう。彼女の 音楽を聞いたことがある方には分かると思うが、心踊るような曲はあまり出さない。むしろ心をえぐるような、心の叫びに似た感じの不思議な曲を出すことが多い、それが彼女の魅力であり、評価されている部分であると思う。そんな彼女主演のミュージカルが果たして一般的な、言ってしまえばハリウッド的な笑いと感動のミュージカルになりうるのか。まずならないだろう。この映画は一言で言えば、涙と感動のミュージカルだ。これまでのミュージカルの概念を吹き飛ばしたといってもいい。

 前半部分ではほとんどミュージカル形式になっていない、それはちょうどビョークの歌手としての強烈さを消すために役立っているのだが、彼女をセルマと認識できるようになる後半は怒涛のように歌が続く、その歌はすべてセルマの心の叫びであり、それは普通に台詞や情景描写で表すより何倍も見ているものの心に響かせる。感動を与える。

 登場人物はあまり多くない。ビョーク扮するセルマ、息子のジーン、親友のキャシー、家主のビルとリンダ、セルマに恋するジェフ。他もろもろ。そして、この映画は多くの視点からは語られず、大体がセルマの視点から語られる。だから、よりセルマに共感することができる。

 セルマは遺伝で目が悪く、失明することが分かっていた。そして、ジーンにも遺伝していて、手術するため二人でアメリカへと渡ってきた。そのことをジーンには知らせていない。精神的ショックが目に悪影響を及ぼすからだ。そのため切り詰めて生活しながらも、周囲にはお金はチェコにいる父親に送るとごまかしている。そしてあまりの忙しさに耐え切れなくなると、彼女は「ゲーム」をはじめる。周りの音やリズムに身をゆだね、空想のミュージカルにふけるのだ。彼女にとってミュージカルは唯一の生き甲斐だった。それは目が見えなくなっても劇場にたびたび通うほど。

 しかしそんな空想にふけりがちなことが、後々彼女に降り積もっていくのだが、それは御覧になってから。  ビョークファンの方、単調な娯楽映画に飽きた人、そして何より大きな感動求める人、ぜひ一度劇場に足を運んでもらいたい、あまりの痛ましさに逃げ出したくなるほどの強烈な感動が、そしてラストがあなたを襲うだろう。

 

  


 

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