東京の様々な街を舞台にごく普通の恋愛模様が映し出されているこの映画に、きっと誰もが自分の姿を重ねてしまうであろう。しかしこの映画には一つだけ、普通ではないことがある。それは期間限定付恋愛だということだ。 エリコは、合コンで知り合ったタムラに惹かれるが、タムラにはアメリカに留学中の彼女がいた。それを知ったエリコはあきらめようとするがタムラへの気持ちをおさえきれない。「彼女がアメリカから帰ってくるまでの一年間だけでいいから、私とつき合って」とエリコはタムラに告げ、タムラもその言葉を受け入れてしまう・・。お互いの存在が大きくなるにつれて残り時間は少なくなる。つらくなるエリコに対し、日々淡々と過ごしているタムラ。そんなジレンマに悩み疲れ果てたエリコは、庭でふとフレンチマリーゴールドの花を見つけ、その生き方に自分の姿を重ねる。

 どこにでもいそうな二十一歳のOLエリコを演じるのは田中麗奈。そのエリコを暖かく見守る母親役には樹木希林。どこかで見覚えのある二人。実はこの映画は、味の素の「ほんだし」のCMが発端となってうまれた。このCMの演出をしたのが市川準監督だったのだ。もちろん、二人そろってみそ汁をすするシーンも登場する。CMの延長のような二人のほのぼのとしてユーモアのある雰囲気に思わずにやけてしまう。また十五歳の天才少女詩人、蛍が出演し独特の世界観を映画に加えているのも注目だ。

 休日におしゃべりをしながらくつろぐ二人、なんでもない風景に自分を重ね合わせた。舞台である東京のあらゆる場所の、どこよりもシンプルなアパートの一室での風景だった。なぜかとても切なくなった。こんなにもごく普通の日常を共に過ごすこと、それが私にとって、恋愛には一番大切だったと気づかされたからだ。なんの取柄のない自分に居場所が与えられるような感覚。当たり前すぎて忘れかけていたそんな感覚が思い起こされた。

 ラストには、意外な結末が待っている。その結末の謎を解く鍵はタムラが一流大学を出た商社マン、いわばエリートであることにあるだろう。そこには実に東京という環境ならではの男性の弱さが隠されているのである。対照的に確実にエリコは成長する。

 エリコが成長できたのは、一年間思いっきり恋愛をしたからだ。悔いのない恋愛はいつかいい思い出に変わる。タムラに直球でぶつかっていったことに、エリコはきっと結末で気づいただろう。そして、自分に正直に生きた自分を好きになったのだ。

 映画館を出たら現実の東京が音を立てて待っている。人ごみから抜け出して、少し立ち止まって考えてみてほしい。この映画の印象的なコピーを。 “最近ダメなオトコとつき合っていませんか?”  最近いい恋していますか?そして、ちゃんと朝ごはん食べていますか?

 

  


 

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