「街」という言葉に何か思い入れはないだろうか。生まれ育った土地がどこであれ、人は実際に生活を営むそれとは別の、自分だけの理想の「街」を内に思い描いているように思う。その「街」で通りを行き交う人々は、退屈な毎日のなかで様々な出会いや別れを繰り返し、喜びや悲しみに満ち溢れている。その現実とは似て非なる「街」への憧れを、ノスタルジーと解釈する人もいるだろう。 「ママレイド・ラグ」の六月十九日に発売されたシングル「目抜き通り」は、そんな理想の「街」をよりリアルに歌い上げている。 「ママレイド・ラグ」を無理やりにもジャンル分けしてしまうならば、「喫茶ロック」と称されるだろう。楽曲には七十年代前半の大滝詠一、細野晴臣等が所属していたロックバンド「はっぴいえんど」の面影が垣間見られ、どこか懐かしい感じがする。印象的なギターソロで幕を開け、ドラム、ベースが全編を通して歩く速度のゆったりとした空気感を保ちながら、ギター、ストリングス、キーボードが絡み合い、初夏の目抜き通り(市街で最も人通りの多い道路)の瑞々しさを表現している。何よりも特筆すべきは、ボーカル田中拡邦の今にも風の中に溶け出してしまいそうな歌声だ。か細いながらも伸びやかで、メロウで、袖を通り抜ける爽やかな風を感じさせる。歌詞の方に目を向けると、等身大から見えた「街」の人の流れや喧騒等の、何気ない日常の一場面が切り取られている。そしてサビでは「あの娘に逢えたなら伝えてくれ ずっと待っていると」と繰り返される。その風景は私達の生活に近いようで遠く感じられる。 この歌詞には一人称は出て来ない。つまり、この物語の主役は「私」ではない、「誰か」なのだ。その誰かとは、あなたの理想の「街」に住み、生活し、「あの娘」のことを思う、いつだか通りですれ違った見知らぬあの人かもしれない。彼らは単調ではあるが、現実よりもずっとリアルな暮らしの中で生を謳歌している。 もうすぐ梅雨が明け、一年で最も太陽が降り注ぐ季節が来る。この曲をお供に、あなたも理想の街に繰り出してみてはどうだろうか。     (清野智太郎)

 

  


 

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