夏も終わり、季節はすっかり秋になろうとしている。空を見上げれば、夕日に照らし出されたうろこ雲が一面に広がっている。この空を見ると、四年前にこの世を去った友のことを思い出す▼彼女の病名は脳腫瘍。悪性のものだった。助かることなどないということは、彼女本人も分かっていた。しかし彼女は、辛さや苦しさといった表情を、決して見せることはなかった。「治療は辛いけど、でも、私よりももっと小さいのに病気と闘ってる子だっている。私よりももっと辛い思いをしている人はたくさんいる。辛い思いをしているのは、私だけじゃないんだから」。自分に言い聞かせるようにそう言った彼女の顔と、病室の窓から見えた、夕日に照らされゆっくりと動くうろこ雲の様子は、今でも忘れられずにいる。彼女に会ったのはそれが最後で、その年の冬に、彼女はこの世を去っていった。あの時綺麗だと思った秋の空が、今ではとても悲しい色に見える。大切な人を失う悲しみは、とても大きなものであった▼あの何千人もの尊い命を奪ったテロ事件が起きてから、一年が過ぎた。大切な人を失い、悲しみから立ち直れずにいる人も多いだろう。「テロからは、悲しみや苦しみしか生まれません。もう二度とこのようなことがあってはならないのです」。テレビのアナウンサーが、必死にそう訴えかけている。しかし、もう二度とあってはならないのは、テロだけなのであろうか。その後流れたのは皮肉にも、アメリカのイラクへの武力攻撃のニュースであった。今アメリカが起こそうとしているこの戦争もまた、悲しみや苦しみ以外に一体何を生むというのだろうか。ふとそんなことを思った。▼今日もまた窓の外には、あの時と同じ空が、悲しい色をのせて広がっている。「私よりももっと辛い思いをしている人はたくさんいる。辛い思いをしているのは、私だけじゃないんだから」。あの時友が残したあの言葉が、私の脳裏を掠めていった。       (大山千鶴)

 

  


 

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