現在、学内にその自由さと手軽さで多くのサークルが存在している。しかし、そのサークルの流れに逆行するかのように体育会への道を模索している団体がある。ラクロス。普段はあまり垣間見ることの出来ないスポーツであり、さらに練習を妨げる悪条件の中、彼らはその楽しさと仲間との出会いによって日々活動を続けてきた。そして今回、彼らの二年越しの夢であった一部昇格への入れ替え戦(対専修大)が行われる中、私はラクロス部の長い一日を追ってみた。

 十一月十七日は朝から太陽の光が射していた。だが、昇格の門出を祝うかのような気候は一転、試合直前になって何かを暗示するかのように雲がたちこみ、眩しい光を遮っていった。 試合開始当初から、法大は何かを振り払うように一気に攻勢に出た。「形はどうあれ、点を取り、結果を残したい。それがオフェンスの仕事です」(寺田・社・四)と前日話していたオフェンスリーダーは、相手陣内で、果敢なアタックを見せていた。アメフトのような重装備に、クロスと呼ばれる網のついた棒で、テニスボールとほぼ同じ大きさの堅いゴム樹脂の弾を受け取り、アイスホッケーのようなコートにある小さいゴールに目掛けて放つ。それをさせまいと相手ディフェンダーは、クロスで相手の身体を強烈に叩き、ひるむと同時に、身を寄せ、弾を強奪しようとする。ラクロスと言えば、「激闘」というこの二文字がふさわしい。

 試合が動いた。案の定、先制点は法大だった。1クウォーター12分に、これまでの流れに乗って、突如松木(営・四)が中に入ってディフェンスを振り切りシュート。見事、ゴールが手招きしたように弾は吸い込まれた。たちまちベンチは大興奮の渦。この日のために応援団も駆けつけ、勇んで校歌が始まる。「先制点を取ればチームは乗る。乗り出したら、緊張もほぐれ、いける」(豊田主将・工・四)という言葉がすぐに耳をかすめ、場内はまさに法政一色に包まれた。

  私がこのチームを初めて訪れたのは、朝もやが立ち、身震いする寒さの中だった。時計の針は午前七時半。多摩川河川敷では、その空気を切り裂く大声が聞こえ始めていた。「声出して。サポート。サポート」。前日のあいにく雨でコートは使えない。そのコートも穴だらけで水はけも悪く、決して良いものとは言えないだろう。転倒すると間違いなく怪我をする砂利の上で、何事もないように、選手はまたパス練習を始めた。「午後は他の大学が使用しますから、週五回、この時間から練習をしています」(小倉・営・二)とさらにマネージャーが追いうちをかけた。驚く私の前で、「いろいろときついですよ。新入生の半分は、夏までに辞めていきますしね」と声を揃えて横から選手は口を出す。しかし、悲壮感はかけらもない。裏を返せば「ラクロス好きしかそこにはいない」と言うことか。十人で行うラクロスは交代が無制限に認められている。全選手が縦横無尽にコートを駆けまわるため、5分も走れば、誰でもくたくたとなる。二十九人という少数のハンデを笑顔とチームワークで乗り越えている気がした。

  2クウォーター6分でたまらずタイムアウトを選択した時、スコアボードには「法政1―3専修」と書かれていた。主将の言葉とは逆に、硬さは全くほぐれず、強烈なプレスは相手に無用なファールを与えるだけになり、二分間の退場者が目立ち始める。パスミスも多く、それに乗じて耽々とパスをつなぎ、人数のアドバンテージを活かす相手のシンプルな攻撃にはまってしまった。立て続けに失点を喫し、いつの間にか選手の闘志はフラストレーションに変わる。「オフェンス陣が攻めても点を取れないもどかしさが、相手の攻撃を受け止める粘りを産めなかった」とチームを後ろから見守るゴーリー(キーパー)であり、ディフェンスリーダーでもある岡村(法・四)の言葉は、状態を如実に示していた。自慢のチームワークのおかげで、一つの感染源からウィルスが急速に蔓延するように、一部分にあった「硬さ」というものがチームへと波及する結果を招いてしまった。

「明日は絶対勝てますよ。夏に行った練習試合でも二回とも大差で勝っていますから」。前日練習の休憩中に誰かがポロッとこぼした言葉は、一人歩きし始めていた。流れは一方的な展開と言えばそれまでだった。3クウォーター前半で絶望的とも言える三点差。2クウォーターの一点差に迫るゴールが二倍返しで返ってきて、ベンチは静まりかえっていた。「難しい試合になる」と言っていた主将の言葉が正しかった。「選手はこの一週間、黙々と練習していましたよ。四年生は全員坊主にしましたし」と涙を浮かべながら、試合終了後、相手監督の絞り出すような声を私は聞いた。

 昇格と降格。天国と地獄。両者の意地と意地とがぶつかる試合に楽勝という言葉は存在しなかった。明らかに専大の技術精度は高く、試合展開の読みもうまい。何度も流れを止められ、下を向かない法大選手に敬服はするが、4クウォーターも半分を過ぎ、主将の渾身のゴールがあっても、流れは変わらず一点差が重くのし掛かっていた。相手はパスを回して時間を稼ぐ。焦りはさらに募る中、時計は残り2分を指していた。あと2分で今までの苦労が報われ、一方では全てが徒労となる。両者の間に絶望の境界線が引かれ、法大に後者の領域を与えようとしていた。

  「これが現実か」。私が力無い声でつぶやき、とうとう下を向いた瞬間だった。法大は弾を奪い、一斉攻撃が始まった。何回も練習していたパターンだ。相手もあと一プレーと必死に選手を削る。ベンチではカウントダウンも始まる。「五・四・・・」。ゴール前混戦。オレンジの選手がシュートを放った。そして大歓声が上がった。ちょうどその時―。

  「去年より技術はないチームがここまできたのはやはり、五人の女子マネージャー達の力が一番大きいですよ」と試合後皆は口をそろえた。今までマネージャーと言っても、ただお茶を汲むだけの傍観者でしかなかった一年前。先輩が辞めた後、「私達がこのままではダメだ」と奮起したあの時から手探りの中はじまった改革は、現在、選手のケア、他校のデータ収集とあらゆる面に及ぶ。トレーナー探しにも奔走し、何事も主体的に支えようと懸命に働くようになっていた。 そのマネージャーは、最終クウォーター残り2秒前での同点ゴールに、皆が絶叫で沸き立つ中、涙を流していた。ただただ泣いていた。今までのことが頭に浮かんだのだろうか。がぜん、法大に流れは傾いた。

  延長戦前の休憩中、対照的なベンチの姿があった。もう少しで二年越しの頂きに手が届く明るい笑顔。他方、崖から落とされた悲しい目。勝負の分かれ目は決まった気がした。

  勝負はすぐに決まった。延長Vゴールは高らかに専修の心を包んだのだった。ゴールを決めた殊勲者へ折り重なるように歓喜の輪が広がる。開始1分の出来事に場内は、大熱戦の終止符がいとも簡単に打たれためか、あっけにとられていた。攻めた法大のミスからそのまま独走されたゴールだった。

  試合後、選手全員の足が血で赤く染まっていた。倒れこむ選手も両者から見られた。しかし、たった数メートルの距離にいる一部と二部の差。今まで、チームは組織面の改革にも着手し、コーチもOBから招聘した。そして、将来、体育会に所属し学校から援助を得るための「昇格」には結果が欲しかった。体育会という組織に所属していながらも、活動がなおざりになってしまった部もある。逆を言えば、私が今まで見てきた中でも、一番体育会らしい、サークルであった。しかし、結果は出なかった。 「四年間頑張ってこれたのは、みんなのおかげです。たとえ私がサークルから離れても、決してこの思い出は忘れることはできません」。昨年と同じ場所で、そして同じ夢を託してしまった四年生は、また悔し涙で終わった。現在も早朝から、でこぼこのコートを走りまわる選手の新たな挑戦は、また一から始まった。

 

 


   

 

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