「何ともないわけないよ。機械のような物で体の中ひ引っかき回されるのだから」
彼女は、あっけらかんと言った。これが女の強さだと言わんばかりに。
「年をとるにつれて中絶の後遺症も出てきたし。ホルモンのバランスが崩れるからでしょうね。病気でもないのにね」
 彼女は、結婚後、二回の中絶をしている。一人目を中絶したのは今から十六年前だ。ただ、幸いにもその前に二人の子供を授かっていたため、子供に恵まれなかったというわけではない。それでも、彼女にとって一人の子供の生まれてくる権利を奪ってしまうということは、精神的にもかなり辛かったであろう。そして彼女は、時間がたった今でも産まれてこなかった子供のことを考えてしまう時があるのだという。
「罪悪感というのは恐ろしいものね。水子地蔵を立て、供養したのに、いまだに中絶した事にこだわってしまうもの」
 中絶には人それぞれ事情がある。未成年や、二十代前半の中絶が増えている最近では、「できると思わなかった」や、「結婚できないから」という理由が上位の様だ。

 しかし彼女のように結婚していてもおろさなければならないこともある。彼女の場合は、経済的な事が理由だったらしい。
「子供は好きだから、できることなら産みたかったよ。だけど、先に生まれていた子供のことや、これから生まれてくる子供の将来のこと考えたら、この子達に十分なことをしてあげられないかもしれない。例えばそれが大学進学だったり、留学だったり。だから、おろすしかなかったの」
 どれほど彼女が、彼女自身の現実と理想との格闘をしただろう。それを思うだけで同じ女として胸がいっぱいになる。

 しかしここまで考えていて、どうして避妊をしなかったのだろうか。十六年前とはいえコンドームはあっただろう。彼女が言うには、結婚していたから相手に強要できなかったという。そういう時代だったからと。
「相手に対する恨みのようなものはないといえば嘘になるかな。こういうことになると最終的に痛い思いをするのは女のほうだけどね。でも、彼は感情をあまり表に出す人ではなかったけど、それなりに悩んでいたし、辛い思いもしていたと思うな。だからって、お互いどっちが悪いとか言い合っても、水掛け論だから。」
そして、彼女は自分での避妊も考えたという。 「あの時は今の低用量のものとは違ったからね。副作用が気になって飲む勇気がなかったの。でも、こんなにも、中絶した事を引きずるんだったら、飲むべきだったのかもね。もし低用量ピルみたいなのがあったら、飲んでいたと思うけど」

 まだ去年に解禁されたばかりの「低用量ピル」には色々な意味で誤解が多い。特に男性には、良いイメージがないようだ。しかし、女性が自分で自分の体を守るという意味では、やはり「低用量ピル」の有用性の理解が必要だと思う。
 彼女のように「中絶」という結果になった時、女はもちろん、男にもそれなりに負担や、ダメージが生じるのだ。 「どうしても避妊しなければ」という切迫感のようなものが一般的に浅い現在。「妊娠したら中絶すれば良い」ではすまないことをもっと知るべきではないだろうか。後悔はしても遅いのである   (ゆずっこ)

 


  


 

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