「うまいなぁ」

 初めは言葉さえも出なかった。少しはやれるのではないかと思った自分にむしろ腹が立った。過去六年間やっていた経験を引き出せずに、私は彼らが創る新境地の世界へと引きずり込まれていく。

成長の影には

 法政大学卓球部は現在関東学生リーグの二部に所属する。毎年春・秋二回行われるリーグ戦では上位の成績を修めている。去年のインカレでは全国ベスト八に入り、秋の大会では二部リーグを制するなど近年著しい成長を遂げてきた。 しかし部内練習はいたってシンプルだ。強力な球を打つためにウェイトトレーニングは行っているが、バックハンド、フットワークのような基礎練習は行わない。あるレベルを超えた選手には反復した練習は無駄な作業となるためだ。だから各自の課題練習に大部分を占めてはいるが、それでここまで強くなれるのだろうか。 「選手が他大に出向いて練習に参加し、対戦する相手の特徴や自分の不得意の部分、一部の雰囲気を自覚したのが良い方向に向いています」と四年間部内を見てきた主務の石川智行(経・四)さんは意識改革のような言葉を口にした。二人で行なう個人種目なので、相手から受ける影響は非常に大きい。この練習参加によって生まれる影響は、選手自身に次々と課題を与えるだけでなく、部内に波及して、「やれば勝てる」という雰囲気を作り出した。「今年は一部に上がるチャンスだと皆思っていますから、熱も入ります」。主務の声からも一部昇格への期待が伝わる。

ゆとりを持って

 一部の大学とどこに差があるのか。私は選手層の厚さではないかと推察する。インカレで好成績を修めたのも、団体戦の各チームの出場定員が通常の大会と比べて少なく、各校、最強メンバーで望むことができるからだ。条件はどの大学も同じであるが、結果を見る限り、法政と上位大学の選手の実力差は縮まっているように思える。 法政をなぜ選んだのだろう。一部リーグ内で切磋琢磨する道もあったのではないか。主将の深谷知彦(法・四)さんが「雰囲気」とひとこと発したことで、「ハッ」とした。「大学進学の時、各大学から声がかかって、練習を見学しに行きました。そこでは、がちがちに縛られた練習風景や先輩後輩の差が目に飛び込んできました。もともと勉強もしたいと思っていましたので、それが可能な法政に進路を決めました」。大学でも卓球を続けていた友人が、雰囲気が合わないために辞めたと漏らす声も耳にする。法政伝統の「自由」の享受は選手に自由な練習時間を与え、勉学するゆとりも保証する。「大学生として、卓球だけでなく、さまざまなことに触れてみたいですね」

「がんばれ」

端から観ると地味なスポーツに感じるかもしれない。二人の間に流れる濃密な時間は一般的には感知しづらいからだ。しかし、生涯親しみやすく、健康的なスポーツとしてこれ以上なものはない。上下左右に振られた球を打つための足腰、力強くコントロールされた球を打つための腕、そして瞬時に相手の動きを見極める判断力。決して楽ではない、充実感を与えるスポーツだ。  試合で限界を知った。それ以後私は卓球から離れたが、彼らは今、私を含めた大多数の人の気持ちを背負って打ち込んでいる。見る側に立った視点に変わっても、私は同じ世界で体験した彼らに「がんばれ」とエールを送りたい。

 

 



  

 


 

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